2007年4月29日日曜日

アニメがお仕事!

作家の自伝的な内容とか、アニメ業界漫画、という認識でこれまで読んできましたけれど(あと主人公のイチ乃がかわいいという単純な理由)。

7巻を読むに至って、やっと気づきました。
これは「好きなことを仕事にした人」のための漫画なのですね。

仕事の「対象」そのものを好きで就職した人は、まず自分の思い描いていた理想と現実とのギャップに苦しむことになります。
理想と現実のギャップがあるのは当たり前じゃん、という意見もあります。

でも実際に苦しむことになるのは、人間そのものに対して。
それは他人と自分自身にほかなりません。

他人というのは、自分以外の人間のこと。
どんな仕事でも、人間が回しているという事実において変わりはありません。そして他人は自分ではないので、必ず齟齬が生まれます。必ずです。

アニメが好きな人とだけ仕事がしたい! 七巻で作中の登場人物たちは叫びます。アニメを他の言葉、たとえば株式とか、建築とか、ゲームとか、本や雑誌とかと置き換えても同じことです。

いろんな人がいます。すごいと尊敬できる人、仕事がうまい人や、なんでこの人こんなにヤル気ないの? と疑問視するだけならまだ良い。人の足を平気で引っ張る人もいます。

どうすれば良いのか? どうしようもありません。自分以外の人間は全員自分じゃないのです。だから自分との戦いを続けるしかないわけで。

かというと、今度は自分という人間の理想とのギャップに苦しむことになります。いくら対象を好きであろうと、その業界に入ったばかりの人がすぐに活躍できるわけがない。トーシロであるという自分の姿をすぐに認められる人はそうそういません。

何度も壁にぶち当たって、挫折して、それでようやくモノになっていく。そんな過程をこの漫画は丁寧に描いている。

作中で主人公のイチ乃があまりに仕事に追われているので読者までつられてしまったり、ちょっとした変化があったと思えば物凄くドロドロした人間関係の話だったりする(これも職場の人間関係でイヤ気の差す事のひとつです)ので見落としがちになってしまいますけれど、非常に筋の通った作品です。

「働きマン」は仕事する人間を哲学的に観念的に追った作品。
「サプリ」は仕事する女性を俯瞰で眺めた自嘲的な作品。

そして「アニメがお仕事!」は、好きな事を仕事にした人、してしまった人が、もう一度自分を見直すために是非とも読んでほしい作品です。

最後に、巻末にあったフィクション注記が面白かったので抜粋。

 > この物語はフィクションです。
 > アニメーションのHow-To漫画では決してありません。


そりゃそうだよ。
人の数だけ見てきた職場の姿があって、それは決して他人にとって参考になったりはしませんから。絶対に。


アニメがお仕事! 1巻 (1)アニメがお仕事! 1巻 (1)
石田 敦子

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2007年4月18日水曜日

まにあってます!

自分はどれだけ森永あいが好きなんでしょうか。
あとは「僕と彼女の×××」を紹介すればコンプリートしちゃいますね。

さてこの作品は、少女漫画にありがちなシチュエーション、
  •  借金のカタに住み込みで家政婦をすることになった一人娘
  •  住み込み先には美少年の三兄弟
  •  三兄弟には母親ナシ
  •  逆ハーレム
……というようなお話で、設定はゲーム「フルハウスキス」(漫画化もされてますね)と似たような感じ。
住み込み先の少年たちにしてみれば、慣れない女の子のいる生活でドキドキ☆になるべきなのでしょう。また、主人公の女の子にしても、意地を張りつつも男の子たちを意識してしまって……という展開が王道と云えましょう。

しかし森永あい作品の主人公、あくまでも自分の欲望に忠実です。

というのも女の子がアホの子で、三兄弟を虎視眈々と(まさにヨダレを垂らしながら)狙うので、三兄弟にしてみれば本気で超迷惑なのでした。隙あらば食われるかも知れないというドタバタラブコメで、面白くなりそうだったのに話の軸が生まれないまま終了。残念。

逆ハーレムものが書きたかったという作者の意図は分かります。でも、こんな女がメインヒロインだったら誰でも退く。フルハウスキスのパロディみたいで面白いっちゃ面白いです。

漫画喫茶や書店にある可能性は低いですが、もし発見したらご一読してみてはいかがでしょうか。
まにあってます! 1 (1)まにあってます! 1 (1)
森永 あい

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2007年4月17日火曜日

オーレ!

突然ですがサッカーが好きです。
サッカーを好きになったきっかけと、その作品については別に語りますが、傾向としては個人の能力などに拠るまんがよりも、戦術やチームそのものに焦点を当てたまんがの方が好みです。

しかし「地方におけるサッカーチーム運営」という部分に焦点をおいた珍しい作品があります。それが、最近すっかりSF漫画家からサッカー漫画家へ転身してしまった能田達規の「オーレ!」です。

前作「ORANGE」は田舎チームを引っ張る選手とその熱いサポーターたちの物語でしたが、「オーレ!」はなんと、市役所の小役人が主人公。プロットは映画化で有名になった「県庁の星」と同じで、アクアラインの開通で逆に廃れてしまった下総という街(木更津がモデルらしい)を盛り上げるために、「下総オーレ」なるヘタレチームを、日本のレアルマドリードにしよう! と奔走するという物語。

能田先生が描くだけあって絵も巧いし話も面白い。何よりサポーターの「熱さ」の描き方が半端ではありません。

「ORANGE」と似て非なる感じなのは、チャンピオンでは描けなかったのか、チームの運営費用(広告料とか予算)とか割と生々しい話が表に出てくることなのでしょうか。
さすがバンチ。社会派!(?) Jリーグの抱える現実問題も浮き彫りにしていて、いろいろと勉強になります。

しかし、どれくらい続くのか分かりません。そもそも弱小チームを題材にしたサッカー漫画は、一部リーグに上がるとか強くなっていくことで物語の先行きが無くなるという矛盾を内包しているからです。けれども、始まったばかりのこの物語は、間違いなくおすすめです。

サッカーファンにも、サッカーファンでなくても、純粋に情熱を持った漫画を楽しみたいと思っている人に手に取ってほしい作品です。
オーレ! 1 (1)オーレ! 1 (1)
能田 達規

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狂四郎2030

本当は「バンパイア」について書こうと思っていたのだけれど、その前にこの作品を語らないことには始まらないので先に書くことにしました。

徳弘正也といえば、我々の世代にとっては「シェイプアップ乱」であり「ジャングルの王者ターちゃん」の作者として知られています。

すぐに思いつくであろう絵は、「皮」をびろーんと広げる、あの独特の下ネタですよね。笑う笑わない以前に読んでいるこっちが恥かしくなるような下品なギャグ満載の漫画でした。

しかし、登場人物は純粋で(スケベで)、素直で(スケベで)、一本筋の通った魅力的なスケベ…もとい、人間として描かれていたことは間違いありません。

そして、少年誌から青年誌へと活動の場を移した徳弘正也は唐突に異彩を放ち始めます。それがこの「狂四郎2030」です。

舞台は戦争によって荒廃した未来の日本。独裁支配下の日本では男女は隔離され、唯一の楽しみはインターネットを通じての「バーチャルSEX」のみ。

そんな仮想空間で出会い、恋に落ちた狂四郎とユリカ。互いが実在すると知ったことから想いは燃え上がります。男女が隔離された近未来では重罪と知りつつ、狂四郎はユリカに会うべく旅立ち、血みどろの戦いを繰り広げ、ユリカは支配階級・ゲノム党の男たちから幾度も屈辱を味わいながら、孤独な戦いを続けます。

互いに本当の顔も知らない。もしかしたら穢れた自分を拒否されてしまうかも知れない。会うのが怖い! でも会いたい!
大雑把にストーリーを言うなれば、マッドマックス版ロミオとジュリエットなのです。

荒唐無稽なプロットですが、欲望にまみれた人間の描写が実に生々しく凄惨を極めています。
食いたい。生きたい。死にたくない。殺したい。犯したい。支配したい。蹂躙したい。
自らの欲に突き動かされた人間たちに運命を翻弄され、狂四郎とユリカは幾度もすれ違い、読む者はいつしか歯を食いしばって涙しながら、そんな二人を見守ることになります。

徳弘正也は人間の「本能」を描く作家なのだと思います。
少年誌では、それは明るくスケベな少年の本能でしかなかったけれど、青年誌の上では、大人となった人間の本能を余すところなく描いている。

もちろん、下品なギャグは相も変わらずで、凄惨な物語に一抹の涼風(ずいぶん生臭い風だけど)を吹き込んでいるし、何よりも狂四郎とユリカの互いを求める男と女の本能が、物語を正方向に牽引してくれています。

絶望の果てを極めたラストには賛否両論あるようです。
しかし未読の方には是非一読をお勧めしたい。

絵にアレルギーを覚える向きもあるだろうが、読まずには死ねない。珠玉の名作です。

狂四郎2030 1 (1)狂四郎2030 1 (1)
徳弘 正也

集英社 1998-03
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フルーツバスケット

先日、23巻でついに完結した「フルーツバスケット」。アニメ化もされた有名作品ですし、ご存知の方も多いかと思います。

それにしても15、6巻くらいから結構グダグダな展開で、正直早く終わらないかなーくらいに思っていたものの、読み終わった後で正直にこう云えました。

「読んでよかった」。

一応ストーリーを解説すると、母を事故で失った少女、本田透流が“動物憑き”の呪いにかかった相摩家十二支+一支の人々と出会い交流し、その限りない純粋無垢さによって彼らの凍った心を溶かしていく、というお話。

動物憑きという設定はトンデモであり、登場人物もコメディもかなり強烈でスラップスティックな印象なのだけれど、その実「人と人の触れ合いは難しい」という、ある意味人間の根源の部分に深くメスを入れた人間賛歌作品です。

作者も作風もとてもやわらかく、はんなりとしている癖に「人間って所詮は他人同士だし、本当に分かり合うなんてちゃんちゃら可笑しいわ!」という絶望感がコマ間から溢れ出てくる。後半は特にその傾向が強く出てしまって、読む者を黒い気分で一杯にさせてくれました。

物語終盤に物凄いどんでん返しがあったので、正直収拾付かないんちゃうかと思わなくもなかったけど、やわらかく軟着陸してくれて、改めてああそうか。この作品の本質は伏線回収じゃないよね、と思った次第です。

相田みつをの書に「ひとりになりたい ひとりはさみしい」というのがあるけど、この作品を飾るに相応しい言葉だと思う。

よく「男も読める少女漫画」作品の中に名前があがることの多いフルーツバスケット。完結したついでに読んでみてはいかがでしょうか。

フルーツバスケット (1)フルーツバスケット (1)
高屋 奈月

白泉社 1999-01
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クレイモア

1~4巻で良くある妖魔バスターものかと思いきや、
5~7巻で「ベルセルク」の女性版だったと姿勢を正し、
8~11巻に至るや否や思わず目を見開いて手に汗握る展開に
続きはまだか! と叫びたくなった作品。

主人公たちがとても敵わない強大な相手と対峙し、先ほどまで隣で闘っていたはずの仲間が為す術もなく一蹴されたとき、思わず読み手である自分自身の歯の根が鳴り、身体が震えました。

過去の回想によって、主人公の持つ哀しみと絶望感を読者と共有させる手法に至ったとき、これは「ベルセルク」だ。と思い至ったものの、別種の“怖さ”を感じ、今も作品を追っています(これを書いた時点では11巻まで刊行)。

序盤はややあっさりし過ぎている感もあり物足りませんが、過去の回想を経てから俄然面白くなり始めます。

特に、序盤おざなりだった妖魔のデザインが急に迫力を増すあたりからは、必見と云えるでしょう。この作者は間違いなく変態です。(「エンジェル伝説」のころから片鱗はあったけど…)

掲載紙である月刊少年ジャンプが休刊になるので、次は週刊少年ジャンプに移籍するそうです。週刊ペースでこのクオリティを維持するのは不可能だと思うので、おそらく月イチ掲載になるのでしょう。

いずれにせよ佳境に入り始め、加速する物語を留めては欲しくないものです。

CLAYMORE 1 (1)CLAYMORE 1 (1)
八木 教広

集英社 2002-01
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あひるの王子さま

また森永あいですが…。
面白いのだから仕方ない。

山田太郎とホッケー部の間の作品です。

ブサイクでオタクで、女の子にまったく相手にされないし、好きな女の子に声をかける勇気もない主人公。しかし突発的な交通事故の後、無理矢理美容整形された主人公は超美形に。
さらに三人の姉に人格改造を施された彼は、好きなあの娘のために奔走する……って、オイ! これ「Bバージン」じゃない!?

とはいえ。この作者ならではの魔法やらなんやらが飛び出すトンデモ展開と、テンションの高さで、ある意味Bバージンを超えたと云える(というかBバージンは作者が途中で放棄した感がある)。

不細工だろうがなんだろうが、前向きに強く生きるといいんじゃないかな、という実に投げやり(ホメ言葉)もさることながら、魔法で犬の姿に変えられたエドワードとの友情、そして主人公の姉である蘭のツンデレっぷりの前には、凡百の「萌え」など吹っ飛ぶこと間違いない。

面白かった。残念ながら6巻完結ではありますが、もうちょっと読んでいたかった気がします。

あひるの王子さま 1  あすかコミックスあひるの王子さま 1 あすかコミックス
森永 あい

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2007年4月12日木曜日

砂時計

少年漫画を挑戦と挫折を描くものと定義するなら、少女漫画は人間の心と根源を抉るように描くものと自分は定義しています。

少女漫画がしばしば「恋愛」という舞台を借りているのは、それが人間が表も裏も裸になって挑まなければならない「戦い」として共感を得やすいから。

しばらく前に見事に抉られた「回転銀河」もそうだったが、「砂時計」も同様の作品でした。

抉られた。

人の強さという難しいテーマに挑み、大事なことをちゃんと、まともに正面から描き、答えを出しています。すばらしい。

8巻ラスト付近の主人公の台詞には、期せずして打ちのめされるハメに陥りました。となりで「はじめの一歩」を読んでたおばあちゃんに変な顔で見られたかも知れません(しかし、なぜあんな夜中に、しかもおばあちゃんが「はじめの一歩」を?

心の表層をさわやかになでる漫画が好きです。
共感に心を打ち震わせる漫画も大好きです。

しかしどうしても、自分はこの手の抉り系に、どうしても心惹かれてしまうらしい。読んだあとで苦しむのは自分なのに、困ったものです。

最後に作中の一文からの引用を。

「かけがえのない君に、限りない幸福を」

砂時計 (1)砂時計 (1)
芦原 妃名子

小学館 2003-08-23
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山田太郎ものがたり

自分にとっての森永あい初体験。今更感はあるが読んだ事がなかった…。
んですが、これは面白いですよ。

1巻は手探り感があるけれども、2巻以降、山田に振り回される周囲と、家族に振り回される山田という軸が立ち、スーパーテンションな物語が展開されるのは見事の一言。家族の純粋かつ罪悪感のない貧乏ゆえの残酷さには思わず失笑してしまう。

思わず自分の金銭生活を振り返ってしまうほどに笑った。

それにしてもこの作者、性格の悪い男が好きなんだろうなー。少女漫画は作者の異性の好みがモロ出るから面白い。

ラブコメでもある本作。主人公の妹である小学生のいつ子と、主人公の友人の恋がどうなるんじゃと思っていたら、最終巻の番外編でやってくれおった。図らずも萌えた。これは星5つの名作!

山田太郎ものがたり (第1巻)山田太郎ものがたり (第1巻)
森永 あい

角川書店 1996-04
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極楽! 青春ホッケー部

先日全巻読破した「山田太郎ものがたり」が余りに面白かったので、森永あいの作品を探して読んでいる。「僕と彼女のXXX」と同様、森永あいの現行掲載作品です。

大金持ちというジャンルがある。これもそう。しかし「桜蘭高校ホスト部」と設定がかぶっているのが仇となった。ホスト部よりキャラ立ってないせいか、今ひとつ日の目を見ていないのがかわいそう。作者の持ち味であるハチャメチャさが際立っていて良いと思うのだけれど。

しかし山田太郎で培った貧乏ネタと主人公の強烈さはこちらの勝利か。
主人公は色気よりも食い気、食い気よりも眠気のナイスキャラクターで。対藤岡ハルヒにおいても圧倒的勝利を収めていると思う(藤岡ハルヒとはそもそも役割が異なっているというツッコミは置くとして)。

それにしても、こういうヤル気のない女主人公って、最近の少女まんがの流行りなんですか。
「美女が野獣」(マツモトトモ)とかもこんな感じでしたし。

極楽青春ホッケー部 1 (1)極楽青春ホッケー部 1 (1)
森永 あい

講談社 2005-04-13
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漫画記とは

漫画馬鹿が読んだ漫画レビューを掲載します。

手塚治虫御大の作品を初めとした名作について薦めるのは野暮と考えておりますので、紹介するのは主に今風(現在連載中、最近連載が終わった等)の作品になります。

漫画喫茶で「読むものがないなー」という時などに、このブログを思い出していただいて、もし読んだことがない作品があれば、ご活用ください。薦める作品をお読み頂いても、決して損はないと考える良作についてのみ取り扱っております。

しばらくはAlt-R投稿(元「漫画記」)からの加筆修正が続きます。