徳弘正也といえば、我々の世代にとっては「シェイプアップ乱」であり「ジャングルの王者ターちゃん」の作者として知られています。
すぐに思いつくであろう絵は、「皮」をびろーんと広げる、あの独特の下ネタですよね。笑う笑わない以前に読んでいるこっちが恥かしくなるような下品なギャグ満載の漫画でした。
しかし、登場人物は純粋で(スケベで)、素直で(スケベで)、一本筋の通った魅力的なスケベ…もとい、人間として描かれていたことは間違いありません。
そして、少年誌から青年誌へと活動の場を移した徳弘正也は唐突に異彩を放ち始めます。それがこの「狂四郎2030」です。
舞台は戦争によって荒廃した未来の日本。独裁支配下の日本では男女は隔離され、唯一の楽しみはインターネットを通じての「バーチャルSEX」のみ。
そんな仮想空間で出会い、恋に落ちた狂四郎とユリカ。互いが実在すると知ったことから想いは燃え上がります。男女が隔離された近未来では重罪と知りつつ、狂四郎はユリカに会うべく旅立ち、血みどろの戦いを繰り広げ、ユリカは支配階級・ゲノム党の男たちから幾度も屈辱を味わいながら、孤独な戦いを続けます。
互いに本当の顔も知らない。もしかしたら穢れた自分を拒否されてしまうかも知れない。会うのが怖い! でも会いたい!
大雑把にストーリーを言うなれば、マッドマックス版ロミオとジュリエットなのです。
荒唐無稽なプロットですが、欲望にまみれた人間の描写が実に生々しく凄惨を極めています。
食いたい。生きたい。死にたくない。殺したい。犯したい。支配したい。蹂躙したい。
自らの欲に突き動かされた人間たちに運命を翻弄され、狂四郎とユリカは幾度もすれ違い、読む者はいつしか歯を食いしばって涙しながら、そんな二人を見守ることになります。
徳弘正也は人間の「本能」を描く作家なのだと思います。
少年誌では、それは明るくスケベな少年の本能でしかなかったけれど、青年誌の上では、大人となった人間の本能を余すところなく描いている。
もちろん、下品なギャグは相も変わらずで、凄惨な物語に一抹の涼風(ずいぶん生臭い風だけど)を吹き込んでいるし、何よりも狂四郎とユリカの互いを求める男と女の本能が、物語を正方向に牽引してくれています。
絶望の果てを極めたラストには賛否両論あるようです。
しかし未読の方には是非一読をお勧めしたい。
絵にアレルギーを覚える向きもあるだろうが、読まずには死ねない。珠玉の名作です。
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